失敗しない障害年金の手続きの進め方
(1)はじめに
障害年金の申請を考えている場合、いきなり年金事務所に相談に行くのではなく、事前の準備をしておくべきです。
それは、年金事務所に誤った情報や不正確な情報を伝えると、障害年金の申請において、後々不利益をもたらすことがあるためです。
また、障害年金の申請に失敗しないためには、初めに手続き全体の流れを知り、計画性を持って申請手続きを進めることが必要です。
その上で、診断書の取得の仕方などの有益な情報を、あらかじめ頭に入れておくことが大切です。
ここでは、まず事前準備の内容についてご説明していきます。
そして、障害年金の申請の上で最も重要となる診断書の取得や病歴・就労状況等申立書の作成の仕方のポイントなどについても説明をさせていただきます。
障害年金の申請の手続きの流れにそって、できるだけわかりやすく説明していきますので、ご参考にしていただければ幸いです。
(2)事前の準備
① 初診日の確認
障害年金の申請にあたって、障害の原因となる病気やけがの初診日を明確にすることが必要です。
そのため、一番初めの段階で、病院やクリニックに問い合わせるなどをして、「初診日の日付」を確認します。
また、初診日を確認する際には、その初診日当時のカルテが保管されているかも併せて確認します。(カルテの保存期間は5年とされているため、カルテが廃棄されていることがあるからです。)
カルテが保管されているかどうかで、障害年金の申請の仕方が変わってくるので、保管の有無については、しっかりと確認をすべきです。
もし、カルテが保管されていない場合は、初診日を根拠づける資料を準備したり、また、当初の初診日でなく、別の日を初診日にできないかを検討する必要もでてきます。
(合理的な説明ができることが前提ですが、障害年金の初診日をいつの時点とするかは、複数の見方が成り立つ場合もありえます。)
「初診日」については、障害年金を申請する上で最も大切です。
いつを初診日とするかで、その後の申請手続きに大きな影響がでてきます。
場合によっては、申請手続きを途中で中止しなくてはならなくなることもあります。
自分が考えている初診日で、初診日の証明書(受診状況等証明書)が問題なく取得でるか、その日付を初診日として医師が診断書を書いてくれるのかを、年金事務所に行く前に、よく確認しておくことが大切です。(例えば、診断書についていえば、自分が考えている初診日と医師が考えている初診日とがことなることもあるのです。)
年金事務所に相談に行き、初診日の日付を申告し、その後になって、当初申告した初診日を変更したりすることには、大きなリスクがあるからです。
② 障害年金の審査基準を知る
障害年金を支給するかどうかの審査をする上で、審査の基準が定められています。
それは、「障害認定基準」というもので、日本年金機構のホームページに掲載され、公開されています。
(インターネット上で、「障害認定基準」のキーワードで検索をすれば、簡単に見ることができます。)
「障害認定基準」は、病気の種別ごとに書き分けられているので、該当する箇所をよく読んで、どのような審査基準になっているかを把握します。
事前に審査の基準を知ることは、その後の申請に必要な行動(診断書を取ったり、申立書を作成したりなど)をとる際の指針となります。
何をしたらよいのか、どのように対処すべきなのかなど、判断に迷ったときには、「障害認定基準」に立ち戻ることによって、おのずと答えが得られることもあります。
③ 医師への事前の説明
いきなり医師に診断書の作成を依頼するのではなく、事前の説明・確認をしておくべきといえます。
その内容は、①障害年金の申請をしたいということを伝え、②障害年金の診断書を書いてくれるかの確認をしておくことです。
また、③病状の詳細や、日常生活の具体的な状況(病気のために、日常生活にどのような制限や支障があるか)や就労の状況を、前もってよく伝えておくことです。
障害年金の診断書の記載項目には、日常生活の状況や就労の状況についての項目があるためです。そして、これらの項目は、障害年金の審査において重視されています。
医師は、手元のカルテに基づいて診断書の作成を行いますが、こうした日常生活の状況などは、必ずしもカルテに記載があるとは限りません。
そのため、診断書の記載を依頼する前に、日常生活の状況などを伝えておけば、その内容がカルテに記載され、そのカルテを参照して診断書を作成することが想定されます。
※特に、精神疾患においては、以上のことは重要となるので、細かい点を含めて医師に詳しい状況を伝えておく必要があります。
(3)診断書の取得
① 依頼書の作成
医師に診断書を依頼する際には、依頼内容を書面にまとめた「作成依頼書(記載のお願い)」を作成し、診断書の用紙と一緒に手渡すべきです。
具体的には、「いつの時点の症状を書くのか」、「当初の初診日の日付」、「自覚症状」、「日常生活の状況」や「就労の状況」などについて、わかりやすくまとめればよいのです。
また、行き違いのないように、書面だけでなく、「日常生活の状況」などについては、再度医師に口頭でも要旨を伝えておくべきです。
実際の症状・状態よりも軽い内容の診断書では、障害年金が受給できなくなるなどの不利益が生じる場合があります。
そのため、診断書の取得前に、医師によく事情を伝え、正確な診断書を書いてもらう必要があります。
特に、「日常生活の状況」については、通常カルテには記録されていないため、こちらから医師に具体的な内容を伝えておくことになります。
※「日常生活の状況」は、精神疾患の場合のほか、がんや難病などの場合にも、障害年金の審査の上で、特に重要な評価項目となります。
これらの傷病の場合には、細かい点を含めて詳しく伝えておくことが大切です。
② 診断書のチェックと訂正依頼
診断書を取得した後には、その診断書の内容を何度も見て、不備や記載もれがないかを確認する必要があります。
また、実際の状態よりも軽く記載されていないかも、よく確認します。
特に、肢体や内部障害の診断書では、ほとんどの場合に不備や記載もれがあるので、注意すべきです。
不備や記載もれにあたるかどうか、自分ではよくわからない時には、年金事務所に問合せをすることになります。
もし、不備や記載もれ、また実際の状態よりも軽く記載されている箇所があれば、記載内容の訂正・追記を医師に依頼することになります。
記載内容の訂正を行わないまま、年金事務所に診断書を提出すれば、障害年金の審査の上で、不利益が生じることが想定されます。
また、場合によっては、診断書の不備などが原因となって、障害年金を受けられなくなることにもなりかねません。
そして、診断書の訂正の依頼をする際には、診断書の取得の時と同様に、訂正・追記してもらいたい内容を書面(訂正・追記の依頼書)にまとめて医師に渡します。
「訂正・追記の依頼書」には、医師の理解・納得を得るため、訂正が必要な理由について、簡潔に記載すべきといえます。
また、診断書をコピーして、そのコピーに訂正・追記の内容を赤字で書きこんだものを資料として一緒に渡すと、訂正・追記の内容が正確に伝わると思います。
こうした、診断書の訂正の依頼は、必ずしも1回で済むわけではありません。
場合によっては、何回か行う必要があり、申請をする側にとって、かなりの負担ともなります。
しかし、障害年金の申請にとって、診断書の内容が最も大事になります。
より良い結果を得るには、最善の内容の診断書を提出することが必要となります。
(4)病歴・就労状況等申立書の作成
「病歴・就労状況等申立書」は、自分で書いて提出するものです。
ただ、自分自身で書くのが難しければ、家族や社会保険労務士に代筆してもらうこともできます。
この「病歴・就労状況等証明書」は、書き慣れていないこともあって、いっぺんに書こうとするとかなり大変です。
そのため、「診断書の取得」と並行して、少しずつ無理のない範囲で記載を進めていく必要があります。
作成のポイントは、「病状の経過」や「日常生活の状況」「就労の状況」をできるだけ具体的に記載することが大切です。
また、診断書の内容と矛盾しないように注意をすることも必要です。
この「病歴・就労状況等証明書」も、障害年金の審査に加味されるので、よく考えた上で、時間をかけて作成していかなくてはなりません。
「書き方」としては、まずはじめに、大まかな内容(骨組み)を書き出してみて、後から細かい内容を書き足していくと、書きやすいと思います。
作成にあたっては、読み手(障害年金の審査をする医師)を意識して、読みやすい内容にすべきです。
自分で作成するときは、家族などにも読んでもらうと良いと思います。
読みにくい箇所やわかりずらい表現などについて、アドバイスをしてもらい、必要な修正を加えていくのです。
この「病歴・就労状況等証明書」の書き方がよくわからないという声をよく聴きます。
そのため、当センターでは、「書き方のポイント」などを具体的に説明した内容の記事(ページ)をホームページに掲載しています。
もし、書き方などがよくわからないという方は、以下の当センターの記事(ページ)を参照し、作成にあたって参考にしていただければと思います。
(5)まとめ
これまで、障害年金の申請にあたって、基本となる内容やポイントなどをご説明させていただきました。
障害年金は、一度不支給の決定がおりると、後から、その決定をくつがえすことは困難です。
そのため、障害年金の申請に失敗しないためには、基本に忠実に、ポイントを踏まえて、申請手続きを行うことが大切となります。
また、一つ一つの段階ごとに、細かい点にも目配りして、慎重に手続きを進めていことが必要です。
ただ、障害年金の申請を、すべて自分一人でやりとげるには、かなりの負担と困難を伴います。
一人より二人の方が、障害年金受給に向け、やりとげる力は大きく高まります。
家族などのサポートが得られるのであれば、積極的にサポートをしてもらうことも大切です。
また、わからないことや不安な点があれば、そのままにしておかず、身近な専門家などにも相談して、不安や疑問を解決することも必要です。