⑤「脳疾患(脳出血、脳梗塞等など)」の障害年金のポイント
「脳疾患(脳出血、脳梗塞など)」の障害年金のポイントについて説明をしていきます。
(1)(はじめに)
以下の3つ点から説明をしていきます。
①「診断書の種類」について
② 診断書の取得にあたって
③「病歴・就労状況等申立書」について
(2)①「診断書の種類」について
脳血管障害の場合には、上肢や下肢の障害の他に、高次脳機能障害や言語の障害がある場合が多いと言えます。一方、障害年金の診断書は、障害の部位・内容ごとに診断書の様式が別々に分かれています。
そのため、肢体の障害の他にも障害があるかをよく見極めることが必要です。もし、高次脳機能障害などの精神の障害や失語症などの言語の障害があれば、「肢体」の診断書の他に、「精神」や「言語」の診断書も併せて提出するかどうかを検討することになります。なぜなら、複数の障害がある場合、障害年金の審査は、すべての障害を併せて判断されることが基本だからです。
仮に、いくつかの障害(肢体、精神、言語など)があっても、それぞれの障害に対応する様式の診断書を提出しないのならば、障害の部位・内容のうち審査の対象から外れるものが生じ、あるべき本来の審査が期し難くなってしまいます。
そのため、診断書を取得する前に、主治医に「肢体」の他に、言語(失語症など)や精神(高次脳機能障害など)の障害があるかを確認しておくことになります。
ただし、他に障害があると言っても、その障害の程度が一定程度以上の障害の状態でなければ、診断書を提出しても意味がないことになるので、どの程度の障害であるのかも、あらかじめ確認しておくことが必要となります。
そして、「一定程度以上の障害の状態」かどうかの障害の程度の評価は、障害年金の審査基準である「障害認定基準」の中で示されている「障害等級3級」に該当するかどうかが、一応の目安にはなると考えられます。具体的には、主治医に確認する際に、上記の「障害認定基準」の該当箇所を見てもらい、意見を聞いてみることも一つの方法であると思います。
繰り返しになりますが、一定程度以上の複数の障害があるにもかかわらず、その該当する診断書の様式すべてを提出しないまま障害年金の申請を行えば、障害の程度を軽く判断され、低い障害等級に認定されたり、場合によっては、年金が出ないことにもなりかねません。よって、どの種類の診断書を提出するのかは、まず初めに十分に検討すべき事柄です。
(3)②診断書の取得にあたって
診断書の取得にあたって注意すべきポイントを、診断書の取得前と後に分けて説明します。
〔診断書の取得前〕
障害年金の診断書には、「日常生活の動作の障害の程度」や「日常生活の状況」についての記載項目があります。例えば、「肢体」の診断書の場合、「タオルを絞れるか」「ひもを結べるか」「ズボンの着脱ができるか」「靴下を履けるか」などの記載項目があります。そして、このような「日常生活の動作」などの記載項目は、障害年金の審査の上で大きな位置を占めており、障害年金の支給・不支給や等級の決定に直結する内容となっています。
しかし、重要な記載項目であるにもかかわらず、医師のカルテの中には、上記のような「日常生活の動作」の具体的な記載項目についての直接的な記述がないこともあります。
そのため、診断書の「日常生活の動作の障害の程度」などの記載欄に関して、自分がどの程度の障害があるかを事前に医師に伝えておく必要があります。
そして、医師に伝える際には、以下の点がポイントです。
①診断書の記載項目・内容は、障害年金の審査基準である「障害認定基準」に拠っているため、「障害認定基準」を念頭に入れた上で、診断書の個々の記載項目に即した内容を伝えること。
②伝える内容が多岐にわたり、また正確に障害の程度や状況を伝える必要があるため、「診断書作成依頼書」の名目で文書化すること。
さらに、診断書の作成依頼に関して、注意すべきことがあります。
それは、「障害認定日の特例」に関する事柄です。脳血管障害の場合、初診日から1年6か月を経過していなくても、「初診日から6か月を経過した以後に、医学的な観点からそれ以上の機能回復が殆ど望めないとき」には、障害年金を請求できるという「障害認定日の特例」があります。
この「障害認定日の特例」を用いて請求する場合は、診断書に上記特例の要件に該当することが明記されていなくてはなりません。
具体的には、診断書の所定の項目欄に、①傷病が治った(固定した)旨及び治った(固定した)日、②「機能回復のリハビリが終了している」旨の記載等が必要です。
医師に、必要な記載をしてもらうためには、「障害認定日の特例」の制度自体の説明をした上で、診断書のどの記載欄にどのような記載をするのかを、「診断書作成依頼書」の中でよく説明をしておくことが必要です。
この「障害認定日の特例」に関する診断書の記載内容も、障害年金の支給・不支給に直接かかわることなのでとても大切になります。
〔診断書の取得後〕
診断書を取得した後は、診断書の内容を何回も見直すことが必要です。
脳血管障害の障害年金の診断書でよく目につくのは、診断書の記載事項の記載もれや不備が多いということです。
こうした診断書の記載もれや不備は、障害年金の審査の上で、「不利益な扱い」を受けることにつながります。
すなわち、診断書に記載されていないということは、とりも直さず「その部分については障害はない。」として扱われることになるからです。
また、場合によっては、いったん障害年金の申請をしても、診断書の不備を理由として、申請書類が差し戻されてしまうことがあるからです。
こうした診断書の形式的な不備だけでなく、診断書に書かれている「症状の程度など」の内容に関してもよく見直しをしなくてはなりません。
診断書に記載された、「日常生活動作の障害の程度」や「日常生活の状況」などについて、実際の障害の程度よりも軽く記載されていることがよくあります。
「日常生活動作の障害の程度」や「日常生活の状況」の記載項目は、検査結果の数値をそのまま書き込むものではないからです。
もし、事実とことなっているのであれば、医師によく説明し訂正の依頼を行うことになります。
その際には、診断書の依頼時と同様、依頼する内容をわかりやすく文書にまとめて訂正を依頼することが要請されます。
当事務所の場合でも、医師に資料を示して訂正依頼をすれば、その内容に従って訂正をしてくれる場合がほとんどといえます。
診断書は、取得した後の対応が重要となります。
取得した診断書の内容を慎重に検討しなくてはなりません。
自分一人で診断書を読み直すだけでなく、家族などにも見てもらい、複数の目で診断書の内容を見直すことは、とても有益といえます。
不備、記載もれや現在の症状の程度とことなる記載がある等の場合には、そのまま年金事務所に診断書を提出するのでなく、必ず診断書の訂正の依頼を行うことが必要となります。
(4)③「病歴・就労状況等申立書」について
最後は、「病歴・就労状況等申立書」についてです。
「病歴・就労状況等申立書」は、次の事柄が大切です。
①まず診断書を何回も読み直し、診断書の記載内容を頭に入れることになります。
そのことを前提とした上で、診断書の内容と矛盾しないようにすることを念頭に置いて、「病歴・就労状況等申立書」の作成を行っていきます。
上記を踏まえつつ、「病歴・就労状況等申立書」においても、診断書の記載項目になっている「日常生活の動作の障害の程度」や「日常生活の状況」などの具体的状況や事実関係について、できるだけ詳しく記載することが最大のポイントです。
記載にあたっては、数字(時間や回数など)で示すことができるものについては、具体的な数字を挙げて記述をする方がより説得力を増すものと考えます。
②脳血管障害の場合、「肢体」の診断書だけでなく、「精神(高次脳機能障害等)」や「言語(失語症等)」の診断書を提出する場合が多くあります。
そのような場合には、「病歴・就労状況等申立書」も、提出する診断書の種類にあわせて、各診断書ごとに別々に作成をしなくてはなりません。
(肢体の障害に対応する病歴・就労状況等申立書、精神の障害に対応する病歴・就労状況等申立書、言語の障害に対応する病歴・就労状況等申立書というように別個に作成。)
そしてこの中でも、高次脳機能障害など「精神」の障害に対応する病歴・就労状況等申立書を作成する際には、他の精神疾患の場合と同じく、日常生活の状況(食事、洗面・入浴等、買い物、金銭管理、外出、通院、意思疎通の状況などの項目)につい、その個別の項目ごとに詳しい説明を加えることがポイントとなります。
精神疾患の場合には、他の傷病以上に、「病歴・就労状況等申立書」の記載が重要となってくることから、記載内容をよく練った上で作成を行う必要があります。
脳血管障害の場合は、この「病歴・就労状況等申立書」を複数作成するなど、作成にかかわる負担が大きくなることもあります。
作成を後回しにし、いっぺんに作成することのないよう、早めに作成に取りかかり、毎日少しずつでも作成を進めることが大切です。