①「統合失調症」の障害年金のポイント
「統合失調症」の障害年金のポイントについて説明をしていきます。
(1)(はじめに)
「統合失調症」は、精神疾患の中では、最も障害年金の受給可能性が高い傷病です。
ただし、障害年金の申請においては、知っておくべきいくつかの重要なポイントがあります。
以下、重要ポイントにつき、3つの点から説明をしていきます。
①「初診日の証明」について
②「診断書」について
③「病歴・就労状況等申立書」について
(2)①「初診日の証明」について
統合失調症は、病歴が長期にわたることなどから、障害年金の申請時点では、初診日から長く月日が経過していることが少なくありません。
そのため、カルテの廃棄や病院の閉鎖などで初診日の証明書が取得できなかったり、いつの時点を初診日として障害年金の申請をしたらよいかがわからないなどの問題が起こってきます。
こうした場合にもあきらめてはいけません。
まず何をやるべきかを見定めた上で、できるだけ早く必要な行動をとるべきといえます。このような場合に、やるべきことは、「情報の収集と分析」です。
情報の収集については、①これまで通院した複数の医療機関で、可能な限り情報を実際に集めること、② ①と並行して、通院当時の医療機関の診察券や領収書や処方箋などの記録が自宅に残っていないかをよく調べてみるということです。
また、場合によっては、精神保健福祉手帳を取得した際に提出した診断書について、その写しの開示請求を行政機関に対して行う必要がある場合もあります。
(※ただ、傷病のため、自分で各医療機関にあたって調査等をすることは難しい場合が多くあるので、実際には家族の協力を得て代わりにやってもらうことになります。)
ここで、上記の情報の収集にあたって注意すべきことは、以下のとおりです。
- たとえカルテ自体が廃棄されていたとしても、医療機関のパソコン上などに通院をした日付や診療科などの記録が残されている場合もあるので、その点をも含めて医療機関によく確認をする必要があること。
- 医療機関などからは、後日の証拠書面となるように、文書としての形式で情報を取得すること。
- 各医療機関の一人の担当者のみとのやり取りで終わらせるのでなく、複数の担当者との間でやり取りを行うようにすること。(※例えば、事務担当者に照会して記録がないとの回答があっても、後日ソーシャルワーカーなどの別の担当者に再度照会を行う。)
- 医療機関に照会して当時のカルテなどの記録が残っていることを確認したときは、後日証明書を取る必要が出て来る場合を見越して、障害年金の申請をすることを伝えた上で、保管資料を廃棄しないように伝えておくこと。
- 家族に情報の収集を代わりにやってもらう場会には、必要な情報を詳しく伝えておくなど、家族との間で十分に連携をとり情報の共有化を図ること。
次に、情報を収集した後は、その内容をよく吟味し分析していくことになります。
はじめに、実際に取得した資料の内容を見て、自分の記憶と大きく違っていたことに気づくことも少なくありません。
ここでは、一連の資料の収集・分析を通して、冒頭の「証明書の取得の問題」や「いつの時点を初診日とするか」などの問題への対処方針を決めていくことになります。
取得した情報や資料を比較・検討することによって、上記の対処方針が定まり、また新たな展望が開けてくることになります。
具体的には、初診日の証明書が取れない場合でも、取得・収集した資料等によって初診日を証することができれば障害年金の申請は可能になります。
また、資料の収集・分析過程を通して、当初初診日と考えていた日での証明書が取れなくても、それとは別の日を初診日として障害年金の申請をすることの可能性を考えることもできます。
※ここで、注意しておきたいことを附言させていただきます。
それは、医療機関などで取得した証明書や自宅で保管してあった資料など、そのすべてを障害年金の申請書類・資料として提出するわけではないということです。
あくまで、手許資料として活用し、初診日の証明などに必要な範囲で障害年金の申請に添付していくということです。
以上、「初診日の証明」に関する事柄について、やや長めに説明をしていきました。
というのも、障害年金の申請においては、初診日はすべての基本であり、とても重要な問題であるからです。
しかし、これまでの説明内容に関し、初めて障害年金の申請を行う立場からすれば、一口で情報の収集といっても、どの範囲で情報の取得を行なえばよいか、あるいは情報の分析といってもどう分析したらよいかなどは、そう簡単な事柄とは言えず、疑問や不安も持たれることも多いと思います。
少しでも疑問や不安がある場合は、年金事務所に行く前に、専門家に相談してみることも一つの方法であると思います。
繰り返しになりますが、障害年金の申請において、初診日の問題はすべての基本であり、障害年金の申請結果を左右するため、十分な検討と準備が必要となります
(3)②「診断書」について。
次に、「診断書」に関する内容について、診断書の取得前と取得後に分けて説明をしていきます。
〔診断書の取得前について〕
診断書を取得する前に、医師に「日常生活の状況」や「就労の状況」などを詳しく伝えることが大切です。
なぜなら、障害年金の診断書には、「日常生活の状況」や「就労の状況」を記載する項目があり、これらの記載項目の内容は障害年金の審査の上で最も重視され、障害年金の支給・不支給に直結する評価項目であるからです。
このことに加えて、統合失調症においては、幻覚や妄想の症状は障害年金の審査において重要な評価項目となっているので、幻覚や妄想の状態をできるだけ具体的に伝える必要があります。引きこもりなどについても同様です。
医師にこれらの内容を伝える際に注意すべきことは、以下のとおりです。
①伝える内容について
障害年金の審査基準である「障害認定基準」を理解し、その内容を意識した上で、それに(障害認定基準)即した内容を伝えることになります。
「障害認定基準」に沿って、「日常生活の状況」につき、食事、清潔保持、金銭管理、買い物、通院、外出の状況、対人関係、危機管理などの各項目に分けて明確な形で伝える必要があるのです。
さらに、症状が悪化した場合の症状・状態もしっかりと伝えておきましょう。
その他、現在の症状だけでなく、これまでの症状の経過(発症時からの状況や最近1年間程度の症状の変動など)も併せて伝えておくべきです。
②伝える方法について
①で説明してきたように、医師に伝える内容が多岐にわたり詳細になることから、内容をわかりやすい形で文書化した「診断書作成依頼書」を作成し、医師に手渡すことになります。
また併せて、診察の際に、診断書作成依頼書のポイント(日常生活の状況等)を口頭でも医師に何回か伝える必要があります。
ただ、統合失調症の場合、本人のみでは十分に医師に状況を伝えることが難しい場合があるので、その場合は家族からも医師に必要な情報を伝えることが肝要です。
〔診断書の取得後について〕
次に、診断書の取得後の対応について説明をしていきます。
診断書の取得後には、診断書の不備や記載漏れなどの形式面は勿論のこと、記載内容についても十分に確認し、もし症状が軽く書かれていたり、事実と相違する記載があったりした場合には、診断書の訂正の依頼を必ず行う必要があります。
当センターでも、障害年金の申請を自分でして不支給となったからの相談を受け、その際には、提出した診断書の写しを見せて頂くことがあります。
診断書を拝見すると、「この文章が書かれていたのでは、支給されない。」と思われる内容をよく目にします。
例えば、「日常生活はほぼ自立。」というような内容です。
また、本人から事情をよくお聴きすると、実際の症状よりも軽く記載されているのではと考えられることもしばしばあります。
もし、事実とことなっているのであれば、医師によく説明し訂正の依頼を行うべきです。そして、訂正の依頼を行う際には、診断書の作成依頼の時と同様に、訂正内容をわかりやすい形で文書化し、さらに口頭でも医師に説明をしておく必要があります。
診断書を取得する前にも増して、取得後の対応が重要となるので、診断書を何回も読み込んで、十分に見直し検討を加えることが大切になります。
(4)③「病歴・就労状況等申立書」について
最後は、「病歴・就労状況等申立書」についてです。
「病歴・就労状況等申立書」は、次の事柄が大切です。
まずは診断書を何回も読み直し、診断書の記載内容を念頭に入れることになります。
その上で、診断書の内容と矛盾しないように、さらに診断書の内容を補強していくという視点も持って、「病歴・就労状況等申立書」の作成を行っていきます。
(ただ、診断書ができるまでに時間がかかる場合もあるので、診断書の取得前にも素案を作成しておくことはあります。 その場合でも、診断書の取得後に診断書の内容を踏まえ、申立書の素案の修正や追記を行うことになります。)
ここで、診断書の内容を補強するとはどういうことか、その意味するところを少し説明したいと思います。
例えば、「診断書の記載内容が簡潔な記載にとどまっている場合」、「診断書の中に一読しただけではよくわからない記載や誤解を生じうる記載がある場合」などを想定してください。
このような場合に、診断書の内容を踏まえつつ、その内容(診断書の内容)について、より詳しく自分の言葉で付け加えを施したり、わかりやすく説明することなどを、「病歴・就労状況等申立書」の中で行っていくのです。
その結果として、診断書の内容が明瞭になり、またより説得力も持つというように、診断書自体の内容・効果が高められていくことになるのです。
医師が作成した診断書の内容を固定したものとのみ捉えるのでなく、自ら作成する「病歴・就労状況等申立書」との連携によって、診断書の意味内容の評価・解釈が変動する可能性があるとの考えに立つわけです。
次に、個別の内容としては、以下のようなことが挙げられます。
統合失調症の場合には、幻覚や妄想の症状は障害年金の審査において重要な評価項目であるので、幻覚や妄想の状態をできる限り具体的に伝える必要があります。
その際には、数字(時間や回数などの数字)を挙げて記載する方がより説得力を増すものと考えます。
上記の幻覚や妄想の状態に限らず、「病歴・就労状況等申立書」の作成においては、数字で表現できる内容・項目については、数字を用いることによって、抽象的な文章内容を可視化するという視点も必要となります。
また、入院をしていた場合は、症状の悪化を伝えることができるので、入院前及び入院時の状況を詳しく記載し、さらに何回か入院していた場合にはその間の事情を詳しく書いていくべきです。
統合失調症などの精神疾患で、さかのぼって障害年金の申請をする場合は、症状がずっと継続していたことを「病歴・就労状況等申立書」に明記することが必要です。
もし、通院を中断していた期間があるのであれば、症状が安定していたととられないように、さかのぼって申請する場合と同様に、症状が継続していたことをなるべく具体的に書いていくのです。
その際には、通院を中断した理由も書いておけばなお良いでしょう。
最後になりますが、「病歴・就労状況等申立書」においては、「日常生活の状況」や「就労の状況」についての記載内容が最大のポイントです。
(※「日常生活の状況」については、診断書の依頼の際と同じく、食事、清潔保持(洗面・入浴など)、金銭管理、買い物、通院、外出の状況、対人関係などの項目について、各項目ごとに詳しい記載をしていきます。)
「病歴・就労状況等申立書」の作成には、上記のことを常に念頭に置き、「日常生活の状況」や「就労の状況」に関して、十分なページを割いて、わかりやすい説明をしていくことが何よりも大切です。