⑧「腎疾患(人工透析など)」の障害年金のポイント
「腎疾患(人工透析など)」の障害年金のポイントについて説明をしていきます。
(1)(はじめに)
腎疾患による障害年金の申請は、「それほど難しくない。自分でもできる。」と考えている方が多いように思います。
人工透析施行の場合、「障害等級が2級に該当し、障害年金の支給対象となる。」ことから、そのような見通しに立つのではないかと考えています。
しかし、人工透析をはじめとした腎疾患での障害年金の申請は、困難なケースが相当多くあります。
というのも、腎疾患の場合、発症から障害年金請求に至るまで相当長期間に渡るのが一般的であり、そのことが障害年金の請求を困難なものにしているからです。
そして、最大の難所は、多くの場合、「初診日をいつとするか。その証明書をとれるか。」という点にあります。
そこで、上記の「初診日に関する問題」を中心とした障害年金請求のポイントを順次説明していきます。
(2)「初診日に関する問題」について
既に述べたとおり、腎疾患の場合、当初の発症時点から障害年金の請求を行うまで、長い年月の経過があるのが一般です。
そのため、カルテの廃棄や病院の閉鎖などのために、障害年金の請求に必要な初診日の証明書が取得できなかったり、いつの時点を初診日としたらよいのかわからないなどの問題が、年金請求の入り口の段階から起こってきます。
そして、このような「初診日の認定」や「初診日の証明書の取得」を巡る論点こそが、腎疾患における障害年金請求の最大の関門といえます。
そうであれば、「初診日の認定」や「初診日の証明書の取得」の問題への対処(対策)に最大の力点を置くべきことになります。
こうした問題に対して、まずやるべきことは「情報の収集と分析」です。
情報の収集については、①これまで通院した複数の医療機関で、可能な限り情報を実際に集めること、②①と並行して、過去の健康診断の記録、母子手帳、通院当時の医療機関の診察券や領収書や処方箋などの記録が残っていないかをよく調べてみる必要があります。
腎疾患の場合は、他の傷病に比して、上記の健康診断の記録(尿蛋白などの検査値などの記録)が特に重要となるため、勤務していた職場や健康診断実施機関に詳しい調査をすることが肝要となります。
ここで、上記の情報の収集にあたって注意すべきことは、以下のとおりです。
1.たとえカルテ自体が廃棄されていたとしても、医療機関のパソコン上などに通院をした日付や診療科などの記録が残されている場合もあるので、その点をも含めて医療機関によく確認をする必要があること。
2.後日の証拠書面となるように、文書としての形式で情報を取得すること。
3.医療機関や健康診断実施機関では、一人の担当者のみとのやり取りで終わらせるのでなく、正確な調査を期すため、複数の担当者との間でやり取りを行うようにすること。
4.医療機関、健康診断実施機関などに照会して当時のカルテなどの記録が残っていることを確認したときは、後日証明書を取る必要が出て来る場合を見越して、障害年金の請求をすることを伝えた上で、保管資料を廃棄しないように伝えておくこと。
次に、一連の資料の分析を通して、冒頭の「証明書の取得の問題」や「いつの時点を初診日とするか」などの問題への一応の(暫定的な)対処方針を決めていくことになります。
その後は、診断書を書いてもらう医師との間で「初診日に関する相談」を行うことをすべきです。
取得した証明書類や資料を医師に見せて、自分の考えている初診日で診断書の記載が可能かを相談した上で、いつを初診日とするかの結論を導くことになります。
もし、医師の方で、自分(本人)が考えている初診日では診断書が書けないというのであれば、医師との相談の上、別の初診日での申請を検討していくこととなります。
※ここで、注意すべき点について、いくつかの補足説明をさせていただきます。
①初診日の証明書が取れない場合でも、取得・収集した資料等によって初診日を証することができれば障害年金の請求は可能になります。
②資料の収集・分析過程を通して、当初初診日と考えていた日での証明書が取れなくても、それとは別の日を初診日として障害年金の請求をすることの可能性を考えることもできます。
③医療機関などで取得した証明書や自宅で保管してあった資料など、そのすべてを障害年金の申請書類・資料として提出するわけではないということです。
あくまで、手許資料として活用し、初診日の証明などに必要な範囲で障害年金の申請に添付していくということです。
これまでの説明内容に関し、「どの範囲で情報の取得を行なえばよいか。」、あるいは「情報の分析といってもどう分析したらよいか。」など、疑問や不安も持たれると思います。
少しでも疑問や不安がある場合は、年金事務所に行く前に、専門家に相談してみることも一つの方法であると思います。
繰り返しになりますが、腎疾患での障害年金の請求の最大の関門は、「初診日の認定」と「初診日の証明書の取得」の問題にあります。
これらの問題は、障害年金請求の結果を左右するため、初めの段階での十分な検討と準備が必要となります(3)「病歴・就労状況等申立書」について
「病歴・就労状況等申立書」の作成にあたっては、以下の内容に留意して作成を行う必要があります。
①まずは診断書を何回も読み直し、診断書の記載内容を念頭に入れることになります。その上で、診断書の内容と矛盾しないように、さらに診断書の内容を補強していくという視点も持って、「病歴・就労状況等申立書」の作成を行っていきます。
ここで、「診断書の内容を補強する。」とはどういうことか、その意味するところを少し説明したいと思います。
例えば、診断書の記載内容が簡潔な記載に留まっている場合、診断書の中に一見しただけではよくわからない記載があるような場合を想定してください。
このような場合に、診断書の内容を踏まえつつ、その内容(診断書の記載内容)について、より詳しく自分の言葉で付け加え・補足を施したり、わかりやすく説明することなどを、「病歴・就労状況等申立書」の中で行っていくのです。
その結果として、診断書の内容が明瞭になり、またより説得力も持つというように、診断書自体の内容・効果が高められていくことになるのです。
②前にも述べたように、腎疾患の場合、発症から障害年金の請求に至るまでの期間が長期に渡るため、「病歴・就労状況等申立書」において、その長期の全期間の経過を詳しく説明することが必要となります。
そのために、収集した資料を整理し、内容をよく吟味するなどの事前の準備を行った後、「病歴・就労状況等申立書」の作成にとりかかることになります。
③次は、「初診日の認定」にかかわる事柄です。
腎疾患の場合は、当初に説明をしたように、初診日の認定(特定)が障害年金の請求の上で大きな問題になることがよくあります。
そうした問題に対する対処として、「初診日を巡る事情」や「初診日とその前後の事情との因果関係」などについて、「病歴・就労状況等申立書」の中で関係する具体的な事実(事情)を書き加え、それにより初診日の正当性を基礎づけていくことが考えられます。
こうした視点(初診日の裏付けとなるような記載をしていく。)も考慮の中に入れるべきといえます。
④「病歴・就労状況等申立書」においては、「日常生活の状況」についての記載内容が最大のポイントです。
食事、清潔保持(洗面・入浴など)、通院、外出、買い物などの「日常生活の状況」について、具体例を交えつつ、できるだけ詳しく記述していく必要があります。
こうした「日常生活の状況」について、十分な紙面を割くとともに、わかりやすく丁寧な説明をすることが大切です。
⑤「病歴・就労状況等申立書」は、出来上がった段階で、家族にも読んでもらいましょう。
そして、書き落としたり、書き足りていない内容やわかりにくい箇所や表現などを家族からも指摘してもらい、必要に応じて内容を修正し、より良い「病歴・就労状況等申立書」を作成していくことが大切です。
以上のように、人工透析をはじめとした腎疾患による障害年金の請求は、決して簡単なものではありません。障害年金の請求のポイントを頭に入れた上で、十分な準備の上で請求をすることが大切です。