②「うつ病」の障害年金のポイント
「うつ病」の障害年金のポイントについて説明をしていきます。
(1)(はじめに)
以下の4つの点から、順次説明をしていきます。
①「病名の確認」について
②「初診日の証明」について
③「診断書」について
④「病歴・就労状況等申立書」について
(2)①「病名の確認」について
うつ病で障害年金の申請を考えている場合、病名自体について医師に確認することが必要です。
うつ病は、他の精神疾患との境界が判然としない場合が多くあり、またその時々の状況により傷病名が変っていくことがあるからです。
自分では「うつ病との診断」と考えていても、実際に障害年金の診断書を取得してみると、別の傷病名が記載されていることがあります。
(例えば、抑うつ状態やパニック障害などの神経症です。)
こうした神経症などの場合は、原則として障害年金の支給対象とされていないため、診断書の取得前に予め医師に病名を確認する必要があるのです。
また、診断書に記載されている傷病名によって、障害年金の申請のアプローチの仕方はことなってきます。
例えば、どのような点を重視(注目)して診断書の依頼書を作成するか、また病歴・就労状況等申立書の記載内容や記載の組み立て方などです。
つまり、傷病名の特性を考慮に入れて、具体的な申請のアプローチを践んでいくことになるのです。
このように、診断書に記載される傷病名によって、障害年金の受給可能性が大きく左右され、そのことは「うつ病」においては特にあてはまるため、病名の確認を障害年金の申請前に行っておく必要があります。
(3)②「初診日の証明」について
うつ病は、病歴が長期にわたることなどから、障害年金の申請時点では、初診日から長く月日が経過していることが少なくありません。
そのため、カルテの廃棄や病院の閉鎖などで初診日の証明書が取得できなかったり、いつの時点を初診日として障害年金の申請をしたらよいかがわからないなどの問題が起こってきます。
このような場合に、まずやるべきことは、「情報の収集と分析」です。
情報の収集については、①これまで通院した複数の医療機関で、可能な限り情報を実際に集めること、② ①と並行して、通院当時の医療機関の診察券や領収書や処方箋などの記録が自宅に残っていないかをよく調べてみるということです。
また、場合によっては、精神保健福祉手帳を取得した際に提出した診断書について、その写しの開示請求を行政機関に対して行う必要がある場合もあります。
(※ただ、傷病のため、自分で各医療機関にあたって調査等をすることは難しい場合が多くあるので、実際には家族の協力を得て代わりにやってもらうことになります。)
ここで、上記の情報の収集にあたって注意すべきことは、以下のとおりです。
- たとえカルテ自体が廃棄されていたとしても、医療機関のパソコン上などに通院をした日付や診療科などの記録が残されている場合もあるので、その点をも含めて医療機関によく確認をする必要があること。
- 医療機関などからは、後日の証拠書面となるように、文書としての形式で情報を取得すること。
- 各医療機関の一人の担当者のみとのやり取りで終わらせるのでなく、複数の担当者との間でやり取りを行うようにすること。
(※例えば、事務担当者に照会して記録がないとの回答があっても、後日ソーシャルワーカーなどの別の担当者に再度照会を行う。) - 医療機関に照会して当時のカルテなどの記録が残っていることを確認したときは、後日証明書を取る必要が出て来る場合を見越して、障害年金の申請をすることを伝えた上で、保管資料を廃棄しないように伝えておくこと。
- 家族に情報の収集を代わりにやってもらう場会には、必要な情報を詳しく伝えておくなど、家族との間で十分に連携をとり情報の共有化を図ること。
次に、情報を収集した後は、その内容をよく吟味し分析していくことになります。
ここでは、一連の資料の収集・分析を通して、冒頭の「証明書の取得の問題」や「いつの時点を初診日とするか」などの問題への対処方針を決めていくことになります。
取得した情報や資料を比較・検討することによって、上記の対処方針が定まり、また新たな展望が開けてくることになります。
具体的には、初診日の証明書が取れない場合でも、取得・収集した資料等によって初診日を証することができれば障害年金の申請は可能になります。
また、資料の収集・分析過程を通して、当初初診日と考えていた日での証明書が取れなくても、それとは別の日を初診日として障害年金の申請をすることの可能性を考えることもできます。
※ここで、注意しておきたいことを附言させていただきます。
それは、医療機関などで取得した証明書や自宅で保管してあった資料など、そのすべてを障害年金の申請書類・資料として提出するわけではないということです。
あくまで、手許資料として活用し、初診日の証明などに必要な範囲で障害年金の申請に添付していくということです。
以上、「初診日の証明」に関する事柄について、やや長めに説明をしていきました。
というのも、障害年金の申請においては、初診日はすべての基本であり、とても重要な問題であるからです。
しかし、これまでの説明内容に関し、初めて障害年金の申請を行う立場からすれば、一口で情報の収集といっても、どの範囲で情報の取得を行なえばよいか、あるいは情報の分析といってもどう分析したらよいかなどは、そう簡単な事柄とは言えず、疑問や不安も持たれることも多いと思います。
少しでも疑問や不安がある場合は、年金事務所に行く前に、専門家に相談してみることも一つの方法であると思います。
繰り返しになりますが、障害年金の申請において、初診日の問題はすべての基本であり、障害年金の申請結果を左右するため、十分な検討と準備が必要となります
(4)③「診断書」について。
次に、「診断書」に関する内容について、診断書の取得前と取得後に分けて説明をしていきます。
〔診断書の取得前について〕
診断書を取得する前に、医師に「日常生活の状況」や「就労の状況」などを詳しく伝えることが大切です。
特に、うつ病の場合は、他の傷病にも増して重要となります。
なぜなら、障害年金の診断書には、「日常生活の状況」や「就労の状況」を記載する項目があり、これらの記載項目の内容は、うつ病の障害年金の審査においては、障害年金の支給・不支給に直結する位置づけとなっているからです。
医師に上記の内容を伝える際に注意すべきことは、以下のとおりです。
1.伝える内容について
①まず「日常生活の状況」についてです。
障害年金の審査基準である「障害認定基準」を理解し、その内容を意識した上で、それに(障害認定基準)即した内容を伝えることになります。
「障害認定基準」に沿って、「日常生活の状況」につき、食事、清潔保持、金銭管理、買い物、通院、外出の状況、対人関係、危機管理などの各項目に分けて、明確な形(上記の各項目について自分一人ではできないこと、実際どのような制限や困難があるのか、家族などから受けている援助・支援の具体的内容などを明記)で伝える必要があるのです。
また、症状が悪化した場合の症状・状態もしっかりと伝えておくことが大切です。
②次は、「就労の状況」についてです。
うつ病の場合は、アルバイトなどで現在も仕事についている方が障害年金の申請をされることもよくあります。
年金機構は、「就労の状況」については、大きな関心を持って審査をしています。
なぜなら、障害年金のもともとの趣旨は、傷病により働くことが困難で収入を得ることができない人のために年金を支給することであるからです。
しかし、仕事についているからといって、年金が出ないわけではありません。
うつ病の方で仕事についていても、障害年金を受けている方は多くいます。
問題は、仕事の質と量です。
短時間の労働で軽労働なのであれば、その内容や詳しい事情を医師に話しておくことが必要です。
また、職場の同僚からのサポートの内容や職場での意思疎通の困難さなども、同様にしっかりと伝えておきましょう。
③その他の注意点について
うつ病においては、自殺願望(希死念慮)にかかわることが重要な評価項目の一つとなるので、過去から現在に至るまでの実際の自傷行為などを時系列に沿って詳しく伝える必要があります。
さらに、現在の症状だけでなく、これまでの症状の経過(発症時からの状況や最近1年間程度の症状の変動など)も併せて伝えておくべきです。
なぜなら、障害年金の審査において、上記の症状の経過も審査の考慮要素となっているからです。
2.伝える方法について
これまで説明してきたように、医師に伝える内容が多岐にわたり詳細になることから、内容をわかりやすい形で文書化した「診断書作成依頼書」を作成し、医師に手渡すことになります。 また併せて、診察の際に、診断書作成依頼書のポイント(日常生活の状況等)を口頭でも医師に何回か伝える必要があります。
ただ、うつ病の場合、本人のみでは十分に医師に状況を伝えることが難しい場合もあるので、その場合は家族からも医師に必要な情報を伝えることが肝要です。
〔診断書の取得後について〕
次に、診断書の取得後の対応について説明をしていきます。
診断書の取得後には、診断書の不備や記載漏れなどの形式面は勿論のこと、記載内容についても十分に確認し、もし症状が軽く書かれていたり、事実と相違する記載があったりした場合には、診断書の訂正の依頼を必ず行う必要があります。
当センターでも、障害年金の申請を自分でして不支給となったからの相談を受け、その際には、提出した診断書の写しを見せて頂くことがあります。
診断書を拝見すると、「この文章が書かれていたのでは、支給されない。」と思われる内容をよく目にします。
例えば、「日常生活はほぼ自立。」「一般の就労は可能。」というような内容です。
また、本人から事情をよくお聴きすると、実際の症状よりも軽く記載されているのではと考えられることもしばしばあります。
もし、事実とことなっているのであれば、医師によく説明し訂正の依頼を行うべきです。 そして、訂正の依頼を行う際には、診断書の作成依頼の時と同様に、訂正内容をわかりやすい形で文書化し、さらに口頭でも医師に説明をしておく必要があります。
診断書を取得する前にも増して、取得後の対応が重要となるので、診断書を何回も読み込んで、十分に見直し検討を加えることが大切になります。
(5)④「病歴・就労状況等申立書」について
最後は、「病歴・就労状況等申立書」についてです。
「病歴・就労状況等申立書」は、次の事柄が大切です。
まずは診断書を何回も読み直し、診断書の記載内容を念頭に入れることになります。
その上で、診断書の内容と矛盾しないように、さらに診断書の内容を補強していくという視点も持って、「病歴・就労状況等申立書」の作成を行っていきます。
ここで、診断書の内容を補強するとはどういうことか、その意味するところを少し説明したいと思います。
例えば、診断書の記載内容が簡潔な記載にとどまっている場合、診断書の中に一読しただけではよくわからない記載があるような場合を想定してください。
「うつ病」の場合の具体例をとれば、「就労をしているケースで、診断書の中の就労状況に関する記載で、細かい内容が省かれているような場合」「診断書の記載だけでは、一般雇用かアルバイトかがわからず、誤解を生じうるような場合」です。
このような場合に、診断書の内容を踏まえつつ、その内容(診断書の内容)について、より詳しく自分の言葉で付け加えを施したり、わかりやすく説明することなどを、「病歴・就労状況等申立書」の中で行っていくのです。
その結果として、診断書の内容が明瞭になり、またより説得力も持つというように、診断書自体の内容・効果が高められていくことになるのです。
医師が作成した診断書の内容を固定的な(不変な)ものとのみ捉えるのでなく、自ら作成する「病歴・就労状況等申立書」との連携によって、診断書の意味内容の評価・解釈が変動する可能性があるとの考えに立つわけです。
次に、個別の内容としては、以下のようなことが挙げられます。うつ病の場合には、自傷行為や自殺願望(希死念慮)などに関する事柄は、障害年金の審査において評価項目であるので、自傷行為や自殺願望の内容についてできる限り具体的に伝える必要があります。
その際には、数字(時間や回数などの数字)を挙げて記載する方がより説得力を増すものと考えます。
上記の自傷行為や自殺願望(希死念慮)に限らず、「病歴・就労状況等申立書」の作成においては、数字で表現できる内容・項目については、数字を用いることによって、抽象的な文章内容を可視化するという視点も必要となります。
また、入院をしていた場合は、症状の悪化を伝えることができるので、入院前及び入院時の状況を詳しく記載し、さらに何回か入院していた場合にはその間の事情を詳しく書いていくべきです。
うつ病などの精神疾患で、さかのぼって障害年金の申請をする場合は、症状がずっと継続していたことを「病歴・就労状況等申立書」に明記することが必要です。
もし、通院を中断していた期間があるのであれば、症状が安定していたととられないように、さかのぼって申請する場合と同様に、症状が継続していたことをなるべく具体的に書いていくのです。
その際には、通院を中断した理由も書いておけばなお良いでしょう。
最後になりますが、「病歴・就労状況等申立書」においては、「日常生活の状況」や「就労の状況」についての記載内容が最大のポイントです。
このことは、うつ病においては、他の傷病以上にあてはまることなので、常に念頭に入れておいてください。
なお、具体的な記載内容に関しては、以下のとおりです。
①「日常生活の状況」については、診断書の依頼の際と同様の、食事、清潔保持、金銭管理、買い物、通院、外出の状況、対人関係、危機管理などについて、それぞれの独立した項目(見出し)を「病歴・就労状況等申立書」の文中に設けて、各項目ごとにわかりやすく説明をしていきます。
②また「就労の状況」については、「職場の上司や同僚からのサポートの具体的な内容」「職場での意志疎通(コミュニケーション)の困難さ」「職場で起こった実際の出来事」などを含めて、就労の困難性をできるだけ詳しく記載していきます。
このように、「病歴・就労状況等申立書」の作成では、「日常生活の状況」や「就労の状況」に関して、十分な紙面を割いて、自分の言葉でわかりやすい説明をしていくことがとても大切になります。